執筆・監修:長谷川雅代(歯科衛生士・臨床30年以上)
手袋やマスクは当たり前になっても、「目の保護」はつい後回しになりがちです。
でも、目は無防備な粘膜がむき出しになっている場所。歯科の処置では、思っている以上に多くのものが目に向かって飛んでいます。今日は、見落とされやすい“目を守る”話を整理します。
目も、感染の入口です
感染は、口や鼻からだけ入るわけではありません。目の粘膜(結膜)も、血液や唾液、細菌・ウイルスの立派な入口です。
歯を削るときの注水、超音波スケーラー、エアーをかけたとき——歯科の処置では、目に見えない細かな飛沫(エアロゾル)や切削片、血液が顔に向かって飛びます。自分では気づかないうちに、目に入っていることも。だからこそ、目の防護は「あってもなくても」ではなく、必要な場面では必須の装備なのです。
どんな場面で必要か
目安は、「飛沫や切削片が飛ぶ処置かどうか」です。
- タービン・エンジンでの切削(注水あり)
- 超音波スケーラーでの歯石除去やSRP
- 抜歯や外科処置
- 器具の洗浄(水はねや器具の飛散があるバックヤードも要注意)
診療だけでなく、器材を洗っている場面も見落とされがちです。汚れた器具から水や汚染物が跳ねることがあるため、洗浄時も目の保護を忘れずに。

ふつうのメガネでは足りない理由
「メガネをかけているから大丈夫」と思っていませんか。実は、ふつうのメガネでは、横や上下のすき間から飛沫が入ってしまいます。
目を守るなら、側面まで覆えるタイプを選ぶのがポイントです。
- ゴーグル・保護メガネ:側面(サイドシールド)まで覆えるものを。曇り止め付きだと続けやすい。
- フェイスシールド:顔全体をカバーできるが、下や横にすき間ができるため、マスクと組み合わせて使う。
どちらも「顔にフィットして、すき間が少ない」ことが大切。かけ心地が悪いと、つい外してしまいます。曇りにくさやフィット感は、続けられるかどうかを左右する大事なポイントです。

患者さんの目も守る
忘れてはいけないのが、患者さんの目です。仰向けの姿勢では、落下した器具や薬液、切削片が、患者さんの目に直接入るリスクがあります。
治療中は患者さんにも保護メガネをかけてもらう。これは自分たちを守るのと同じくらい大切な配慮です。「目を守りますね」の一言が、患者さんの安心と信頼にもつながります。守るのは、スタッフだけではありません。
臨床現場では保護メガネではなく、タオルを代用している医院が多いです。タオルであれば、診療用のライトの光も遮ってくれますし、切削や歯石除去時に使用する水の跳ねからも守ってくれます。(タオルの使用は患者さんごとに交換が必須です)
使ったあとのお手入れ
ゴーグルや保護メガネは、繰り返し使うことが多い装備です。使用後は汚れを落として洗浄・消毒し、次に清潔な状態で使えるようにします。
使える消毒方法やアルコールの可否は、レンズの素材によって異なります(アルコールで曇る・劣化することも)。最終的には各製品の取扱説明書(IFU)を確認してください。「原則はガイドライン、具体的な可否はIFU」の二段構えで考えると迷いません。
明日からできる3つのこと
- 飛ぶ処置では必ず着ける:切削・スケーリング・抜歯・洗浄時に。
- 側面まで覆うものを選ぶ:ふつうのメガネでは横から入る。
- 患者さんにも保護メガネ(またはタオル)を:仰向けの目を守る一言を。
目の防護は、慣れるまでは少しわずらわしく感じるかもしれません。でも、一度習慣になれば当たり前の身支度になります。無理なく続けられる、自分に合った一つを見つけることから始めましょう。
参考文献
- CDC「Guidelines for Infection Control in Dental Health-Care Settings」(2003)
- CDC「Summary of Infection Prevention Practices in Dental Settings」(2016) https://www.cdc.gov/oral-health/hcp/infection-control/index.html
- 日本歯科医学会監修「エビデンスに基づく一般歯科診療における院内感染対策実践マニュアル」(永末書店)
- 日本環境感染学会 各種ガイドライン(個人防護具の選択・着脱)

長谷川 雅代
歯科衛生士(臨床30年以上)/歯科感染管理協会 監修
1993年堺歯科衛生士専門学校卒。30年以上の臨床経験を持ち、現在も臨床に立ち続けることで「歯科医院の今」を熟知する。その豊富な知見を強みに、スタッフ教育や院内環境の改善に携わる。DHマネジメント協会に所属し、新人教育や標準予防策に基づく意識改革を提案する専門家として全国で研修を行う。理想論に留まらない、現場を知るからこそ可能な実践的感染管理システムの構築とマニュアル整備に注力している。

