感染管理を学び出した頃、医院で使用している滅菌器が、どのタイプなのかがいちばん気になりました。そもそも、滅菌器にタイプがあるなんて知りませんでした。
滅菌器の特徴を学んだ時がいちばん衝撃を受けたのを記憶しています。
当時は聞ける人もいませんでした。
だからこの記事は、知識の話ではなく「確かめ方」の話です。読み終わったら、自分の医院の滅菌器が何なのか、調べられる状態になっているはずです。
なぜ「どのタイプか」を知る必要があるのか
滅菌器は、見た目では違いが分かりません。同じような大きさの、同じような白い箱です。
でも中身は違います。滅菌の前に、庫内の空気をどうやって抜くか。ここが機種によって違い、そしてそれが「何を滅菌できるか」を分けています。
空気が残っていると、そこに蒸気が入りません。蒸気が触れていない場所は、滅菌されません。だから空気の抜き方が、そのまま結果になります。
差がはっきり出るのは、次の2つです。
- 中空の器材:ハンドピースのように、細い管が内部を通っているもの。管の奥まで蒸気が届くかどうか。
- 滅菌バッグに入った器材:袋の中の空気が抜けるかどうか。
POINT ミラーやピンセットのような中空(空洞)がない器材は、包装(滅菌バッグ)を使用しないのであれば、タイプによる差は大きく出ません。差が出るのは「中空」と「包装した器具」の2つです。日々の不安の正体は、たいていこのどちらかです。
ヨーロッパ規格の3つのクラス
小型の高圧蒸気滅菌器には、ヨーロッパ規格(EN13060)にもとづくクラス分けがあります。B・S・Nの3つです。
- クラスB:固形の器材、繊維製品(多孔体)、内部が中空構造の器材を滅菌できる。滅菌バッグでの包装も可能。
- クラスS:固形の器材と中空構造の器材を滅菌できる。ただし対応範囲にメーカーごとの制限があるため、必ず個別に確認が必要。
- クラスN:滅菌バッグで包装していない固形の器材のみ。中空構造のものは対象外。

大切なのは、これは「良い・悪い」の格付けではないということです。「何を滅菌できるか」の分類です。クラスNの機械が劣っているのではなく、対象としている範囲が違います。
もうひとつ、知っておくと混乱しない話があります。
呼び名が、2種類あります。
クラスB・S・Nは、小型の滅菌器についてのヨーロッパ規格(EN13060)の言い方です。歯科の卓上の機械は、たいていこの言葉で語られます。
いっぽう日本の資料では、空気の抜き方そのものを名前で呼びます。重力置換式と真空式(プレバキューム式)です。カタログや講習会の資料では、こちらをよく見かけます。
おおまかには、こう重なります。
- 重力置換式 = クラスN
- 真空式(プレバキューム式) = クラスB または S
ただし、これは規格どうしが決めた対応ではありません。クラスは「何を滅菌できるか」の分類、方式の名前は「空気をどう抜くか」の呼び名で、もともと別の物差しです。実際にはほぼ重なる、という程度に思っておいてください。
POINT 重力置換式は、古い方式ではありません。日本医療機器学会の『医療現場における滅菌保証のガイドライン2026』にも、いま確認すべき空気の抜き方のひとつとして書かれています。新しい・古いではなく、何を滅菌するかで必要な方式が変わる、という話です。
じつは、見た目でも見当がつきます
滅菌器は見た目では分からない、と先に書きました。でも正確に言うと、扉のまわりを見ると、だいたいの見当はつきます。
- 扉に回転式のレバー(ハンドル)がついている……手で回して締めるタイプ。しくみがシンプルな機種によくある作りです。
- 丸いアナログの圧力計がついている……針で庫内の圧を見せるタイプ。これも同じく、シンプルな作りの機種によく見られます。
この2つがそろっている機械はクラスNであることが多い、というのが私の実感です。

いっぽう、扉がボタンで自動的にロックされ、表示がデジタルで、記録の出力端子(USBなど)がついているものは、真空引きを行うタイプ(クラスSやB)であることが多いです。
いちばん確かな手がかりは、操作パネルにあります
扉の見た目よりも、はっきり分かるものがあります。テストプログラムです。
真空引きをする滅菌器には、自分の性能を自分で確かめるためのテストが入っています。操作パネルやメニューに、こういう名前が並んでいないか見てください。
- 真空リークテスト(真空漏れテスト)……庫内がきちんと真空を保てるかを確かめる
- ボウィー・ディックテスト(B&Dテスト)……空気が抜けて、蒸気が全体に行き渡るかを確かめる
- ヘリックステスト……細い管の奥まで蒸気が届くかを確かめる
これらは真空引きをする機械のためのテストです。クラスNには入っていません。真空引きをしないので、確かめる対象がないからです。

もうひとつ、プログラム名そのものにも手がかりがあります。機種によっては「B ユニバーサル 134℃」「S ファスト 134℃」のように、クラスの記号がそのまま書かれていることがあります。ボタンの名前を、いちど眺めてみてください。
つまり、こうしたテストプログラムが並んでいたら、真空引きをするタイプだと考えていい。扉の見た目より、こちらのほうがずっと確かです。

POINT 扉や圧力計は「見当」、テストプログラムは「かなり確かな手がかり」。それでも最終的には、次の手順で型番から確かめてください。目で見て見当をつけてから、確かめる。この順番がいちばん確実です。
見分け方(4つの手順)
① 本体で「販売名」と「製造番号」を控える
本体のどこかに、機械の名称と製造番号が表示されています。前面の下のほう、背面、扉の内側などです。まずこれをメモしてください。写真を撮っておくのがいちばん確実です。
そして知っておいてほしいこと。確実な答えは、本体だけでは出ません。さきほどの見た目のヒントは、あくまで見当をつけるためのものです。だから、ここから先へ進みます。
② メーカーの公式サイトで、その型番を調べる
「EN13060」「クラスB」「クラスS」「クラスN」という表記があれば、それが直接の答えです。
表記が見つからないときは、次の3つの言葉を探してください。
- 中空(または中空構造)
- 多孔体(または繊維製品)
- 包装(または非包装・未包装)
この3つが「対象」と書かれているか、「対象外」「適さない」と書かれているか。実質の答えは、ここに出ています。
それから、「重力置換式」「真空式」「プレバキューム」という言葉も探してみてください。空気の抜き方が書いてあれば、それだけでほぼ答えになります。
③ PMDAの「医療機器 添付文書等情報検索」で調べる
取扱説明書が院内で見つからない。よくあることです。そんなときに使えるものがあります。
独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA)が公開している「医療機器 添付文書等情報検索」です。登録もログインも要らず、誰でも無料で使えます。
「一般的名称・販売名」の欄に、①で控えた販売名を入れて検索します。出てきた添付文書には、その機械の一般的名称・使用目的・使用方法が書かれています。メーカーが正式に届け出た情報です。
→ PMDA 医療機器 添付文書等情報検索
院内の器材を調べるときにも使えます。ブックマークしておくと便利です。
④ それでも分からなければ、メーカーに聞く
これが、いちばん確実です。そして、いちばん誰も教えてくれない方法でもあります。
「◯◯(販売名・型式)を使用しています。
滅菌バッグに入った器材と、ハンドピースのような中空構造の器材は、この機種の適用範囲に含まれますか。」
これだけで伝わります。
ここで、ひとつ気をつけてほしいこと
②や③で調べていくと、こういう名前に出会うことがあります。
- 小型包装品用高圧蒸気滅菌器
- 小型未包装品用高圧蒸気滅菌器
「包装品用って書いてある。じゃあ、包装したものも大丈夫なんだ」
そう読みたくなります。私も最初はそう思いました。
でも、これは違うんです。
この名前は「一般的名称」といって、薬機法という法律の手続きのうえでの呼び名です。届け出るときに、その機械が主にどちらの運転サイクルを持つかで決まります。定義には「もう一方のサイクルを組み合わせて持つこともある」という趣旨のことが、はっきり書かれています。
つまり性能の格付けでもなければ、滅菌できる範囲の宣言でもないのです。
実際、ヨーロッパ規格でクラスBとされている機種に「未包装品用」という一般的名称がついていることもあります。名前だけを見ると、逆に見えてしまう。
POINT 見るところは、名前ではありません。EN13060のクラスと、メーカーが書いている適用範囲です。ここを取り違えると、正しく調べたつもりで逆の結論にたどり着いてしまいます。
確かめたあと、どうするか
もうひとつ、知っておくとよいことがあります。
『医療現場における滅菌保証のガイドライン2026』には、器材の取扱説明書を見て、その器材が求めている空気の抜き方を確認する、という趣旨のことが書かれています。
つまり、「どの機械が優れているか」ではなく「この器材は何を必要としているか」から考える。病院の中央材料室では、そうやって決めています。
自院でも同じです。ハンドピースの説明書に、何と書いてあるか。そこが出発点になります。
クラスNだった場合
日本の歯科医院では、よく使われているタイプです。
機械が悪いのではなく、合う使い方があります。
- 包装しない固形の器材は、これまでどおり使えます。
- ハンドピースのような中空のもの、滅菌バッグに入れて保管したいものは、別の方法を考えます。対応する機器を使う、使う直前に開ける運用に変える、買い替えの検討材料にする——選択肢はいくつもあります。
いちばん大事なのは、できないことを、知らないまま続けないことです。知ってさえいれば、運用でうめられる部分があります。
クラスB・Sだった場合
今度は、持っている性能を使い切れているかです。良い機械を入れていても、使い方でその力は落ちます。
- 詰め込みすぎていないか(蒸気が回るための隙間が要ります)
- 乾燥が終わってから取り出しているか
- 記録は残っているか
そして、テストプログラムです。入っていても、使われていないことがとても多い。「あることは知っていたけれど、押したことがない」——よく聞きます。
せっかく機械が自分の状態を教えてくれる機能です。どのくらいの頻度で走らせるか、取扱説明書を見て決めておいてください。決めて、記録に残す。それだけで、その機械は「たぶん大丈夫」から「確かめている」に変わります。
くわしくは滅菌後の乾燥はなぜ必須か、滅菌バッグの正しい使い方ルール、滅菌器具の保管期限と管理方法もあわせてご覧ください。
そして、クラスが何であっても変わらないことがひとつあります。インジケータで毎回確認することです。クラスは「何を滅菌できるか」を決めますが、「今日きちんと滅菌できたか」を教えてくれるのはインジケータだけです。
まとめ
まず、目で見て見当をつける。扉に回転式のレバーとアナログの圧力計があれば、クラスNであることが多い。操作パネルに真空リークテストやB&Dテストが並んでいれば、真空引きをするタイプ。
そのうえで、確かめる手順は4つでした。
- ① 本体で販売名と製造番号を控える
- ② メーカー公式で「中空・多孔体・包装」を探す
- ③ PMDAの添付文書検索で調べる
- ④ 分からなければ、型番を控えてメーカーに聞く
そして、名前ではなくクラスと適用範囲を見ること。
滅菌器の種類を知ったことで機種にあわせた適切な扱いができます。滅菌バッグの使用の有無の考え方もできてきます。よって、滅菌器を正しく扱うことができるようになります。
滅菌は、洗浄から保管までつながった一連の流れの一部です。全体像はこちらにまとめています。
→ 器材再生処理まるごとガイド|洗浄・消毒・滅菌・保管の全体像
参考:EN13060(小型蒸気滅菌器に関するヨーロッパ規格)/一般社団法人日本医療機器学会『医療現場における滅菌保証のガイドライン2026』/独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA)医療機器 添付文書等情報検索/各メーカー公表資料。本記事は2026年8月時点の情報にもとづいています。個々の機種の適用範囲は、必ずメーカーの公式情報でご確認ください。
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歯科感染管理協会の出張研修では、実際に使っている機器と手順を見ながら、自院に合った運用を一緒に組み立てます。スタッフ全員で学べる認定講座もあります。

長谷川 雅代
歯科衛生士(臨床30年以上)/歯科感染管理協会 監修
1993年堺歯科衛生士専門学校卒。30年以上の臨床経験を持ち、現在も臨床に立ち続けることで「歯科医院の今」を熟知する。その豊富な知見を強みに、スタッフ教育や院内環境の改善に携わる。DHマネジメント協会に所属し、新人教育や標準予防策に基づく意識改革を提案する専門家として全国で研修を行う。理想論に留まらない、現場を知るからこそ可能な実践的感染管理システムの構築とマニュアル整備に注力している。
